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(連載小説)婆ちゃんの贈り物 第7話

次の日、授業が全て終わり、ホームルームが始まった。
希美先生をいつもと違った意味でまじまじと見つめる。
まだ変わった様子はない。
終わって退出する先生を少し離れて追いかける。
先生は教室を出ると職員室に向かって歩き始めるが、何かを思い出したように歩みを止めると、突然向きを変える。
その瞬間に目が合ってしまう。
俺が戸惑っていると近づき話しかけてきた。

「どうしたの?私に何か用かしら?」

「いえ、その…」

俺が言葉に詰まっていると追い打ちをかけてくる。

「私が命令を実行できるかどうか気になるの?」

図星を突かれて頷くと同時に、目の前の女性が別人格の『彼女』になっていることを俺は確信する。
昨日『希美先生』は、華立先生を誘うのはともかく、古閑先生は難しいと言った。
つまり、命令を実行しようと思うなら古閑先生を騙さないといけないのではないか。
今は命令に従順な別人格とはいえ、人を騙すという行為を心優しい先生がする姿が全く想像できないのである。
下手をすれば婆ちゃんが言っていた『人格の崩壊』というやつが起こるのではないか。
そんな俺の考えを感じ取ったのか、『彼女』は微笑みながら告げる。

「いいわ、ついてきて」

俺たちは保健室に立ち寄る。

「そこで待っててね」

『彼女』はそう言うとドアをノックにして中に入る。

「優奈、入るわよ」

おそらく俺に中の会話が聞かせるためだろう、ドアは半開きのままにする。

「あら希美、どうしたの?」

「今日、ちょっと付き合って欲しいのよ。あとで陽菜乃も誘うつもり」

「一体どこに行くっていうの?」

「駅前に良く当たる占い屋があるんだけど、そこで3人で占ってもらおうかなって」

「…占いねぇ。私は興味ないわ。2人で行ってきたら?」

「ふふ、そう言うと思ってた。だけどね、最近の占いってカウンセリングの意味合いが強くて、気分もすっきりするのよ。優奈の場合、仕事の参考になるんじゃないかな?」

「ふ~ん、そうなんだ」

「それに私は何度か行ったことがあって、初見の友達を連れてきたらその日の料金は全員サービスになるの。ね、どう、お得でしょ?」

「…わかったわ、ちょっと興味も湧いてきたし、無料だったらね」

「ありがとう!じゃあ陽菜乃にも声を掛けておくね」

保健室を出てきた『彼女』は俺に目でついてくるように指示する。

「ね、上手く出来たでしょ?」

あっさりと友人を騙して見せた『彼女』は得意げに言い放つと真剣な顔になり言葉を続ける。

「君は大事なことを勘違いしてるわ。私は君の知っている『希美先生』じゃないわ。命令されたことを『小岸希美』という女の全てを利用して実行する『コンパニオン』、言うなれば『裏の小岸希美』ね」

驚愕の告白に俺はその場に固まってしまう。

「『表の私』が出来ることは当然『私』にも出来るし、『表の私』がどんなに忌み嫌って出来ない事でも、命令されれば『私』は笑顔で出来るわ。そして男を相手にするときは、どんなリクエストにも応じて相手を喜ばせるわ」

不敵な笑みを浮かべて『彼女』は続ける。

「もちろん君の事は嫌いじゃないから、また命じられたら君の相手を喜んでするわ。君が望むなら『希美先生』になりきって相手してあげるし」

『彼女』は言い放つと次の獲物を見据えるように目を細めて呟く。

「あとは陽菜乃ね」

もう1つの仕事を片付けるために、心優しい女教師の姿をした『コンパニオン』は職員室に向かって歩き始める。
俺はその後ろ姿を黙って見送りながら、自分の中で何かが大きく変わっていくのを感じた。
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