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(連載小説)憑依の研究 第6話 欲求不満な授業

次の日、俺は朝からずっと用務員からの誘いをどうするか悩んでいた。
(昨日の妙穂先生の様子だと、記憶にうっすらと残っているだけで他におかしいところはなかったし、気をつけて楽しめばいいんじゃないか?)
(いやいや、他人の体を勝手に使うんだぞ?それに俺たちが気付いていない落とし穴があるかもしれない)
自分の中で自問自答が繰り返され、授業は完全に上の空だった。
そして、その日の最後の授業になった。
妙穂先生が教室に入ってくる。
「な!」
俺は驚愕の余り、勢いよく立ち上がり声を挙げてしまった。
なぜなら妙穂先生のピンクのオーラの下に潜む青いオーラを見つけてしまったからだ。
「どうしたの?尾畑君。もう予鈴は鳴ってるわよ、席に着いて」
俺が困惑しながらも席に着くと、先生モドキは楽しそうな笑みを浮かべる。
(どうするつもりなんだ!)
「じゃあ授業を始めるわね。今日は138ページからだったわね…」
俺の不安をよそに、授業は普通に進んでいく。
「…で、さっきの文脈からここに繋がってるの。ここまでで質問のある人?」
先生の説明が一段落ついた時だった。
「…飽きたわ」
突然、ボソリと呟いたのが俺には聞こえた。
「ちょっと一息入れましょうか」
先生の提案にクラスの雰囲気が和らぐ。
しかし、俺には嫌な予感しかしない。
「この機会に皆に聞いてみたいことがあるの、いいかな?」
何事だろうと、クラスの連中が興味津々になる。
「アンケートを取るから手を挙げてね。まずは男子に聞きたいんだけど、先生の胸に興味がある人?」
一瞬クラスの空気が凍り付いた後、ざわめく。
さすがに誰も手を挙げない。
「うーん、結構大きめで形も良いと思うんだけど…それとも答えにくかったかな?」
どう考えても後者だが、誰もそんなツッコミはするわけがない。
「それじゃあ、次は答えやすいと思うわ。全員に質問ね。私が処女だと思う人?」
再びクラス中がどよめくが、戸惑いながらも男子の大半が恐る恐る手を挙げた。
逆に女子はほとんど手を挙げていない。
「ふ~ん、なるほどね。先生、実はね…」
「先生!」
俺は勢いよく立ち上がって、モドキの発言を遮る。
「どうしたのかしら、尾畑君」
俺を睨みながら冷ややかな声を出す妙穂モドキ。
「授業を進めてもらえませんか?お・ね・が・い・し・ま・す!」
俺も睨み返しながら強い口調で返す。
わずかな睨み合いの後、先に口を開いたのは先生の方だった。
「…まあ、いいわ」
冷めた小声で呟くと、急に笑顔を作り、自分にフォローを入れる。
「ごめんね、みんな、先生ちょっと欲求不満が溜まってたみたい。でも性的なことに興味を持つのは自然なことだから、みんなも気にしないでね」
どよめいていたクラスだったが、冗談の類だったと受け止めたようで鎮静化していく。
(普段の妙穂先生の人徳にとりあえず救われたな…しばらく噂になるのは仕方ないか…)
そして気を取り直したように授業が再開され、何事も無く終了の時間になった。
「それじゃあ、今日はここまでね。おつかれさま」
俺は教室を出ていく先生を追う。
廊下で追いついた時にはオーラのメッキは剥げて歩き方も荒かった。
モドキは険しい顔をしながら俺に言い放つ。
「…俺は言ったよな、邪魔をするなと…」
妙穂先生の綺麗な声で凄みの効いた言い方をされて、背筋に寒いものが走る。
だが怖気づくわけにはいかない。
「あれは、やりすぎだって。あんたも言ってたじゃないか、やりすぎて後悔したって」
「ふん、それが分かったから大人しく授業を続けてやったんだ。確かにやりすぎた。だが、俺は邪魔されるのが大嫌いなんだよ」
(なんなんだ、こいつ)
「そもそも、何でこんなことやってるんですか?」
「ん?そりゃあ授業ってやつをやってみたくなってな、なんとなくだ」
(ダメだ、こいつ。適当すぎる)
そして俺は決心した。
「…手を組むって話、俺、受けます」
(こいつの暴走を防ぐためにもここは手を組むべきだ)
すると先生モドキは機嫌を直す。
「そうか!つまり、あの条件もOKってことだな?」
本当はどうでもいいことだが、俺は素直に頷く。
「じゃあ、このまま校長の所に行こうぜ!」
俺の心の準備ができないまま、勝手に話を進める。
「俺は椎木妙穂だ!」
そう言い放つと先生の体が纏うオーラが再びピンクに包まれる。
「うん、かなり慣れてきたわ。さあ行きましょう」
俺たちは校長室に向かう。
コンコン
「失礼します。今、お時間よろしいでしょうか?」
ドアをノックして一緒に中に入った妙穂モドキは校長に話しかける。
「大丈夫ですよ、椎木先生。どんな用件でしょうか?」
「はい、先日の事故に関して、彼…尾畑君から相談を受けまして…」
「ああ、君には災難だったね。無事退院できてよかった。で、相談とは?」
「はい、実は彼の証言に偽りがあったようで…」
そう言って俺に目で発言を促すが、俺はどう言えば良いか分からず迷っていると妙穂モドキが話を続けた。
「…どうやら彼の方から木乃池さんに手を出したようなんです」
校長は不思議そうに首を傾げる。
「しかし、第三者の証言ではそうでなかったとありましたが?」
ここで俺はやっと声をだせた。
「あの…実は僕の方が先に用務員さんを怒らせるような事をしてしまって…本当に申し訳ないと思ってます」
そういって頭を下げる。
妙穂モドキが口添えする。
「…彼も反省しているみたいですし、今回の事は無かったものとしてみてはどうでしょうか?」
校長はしばし考え、結論を出す。
「…わかりました。椎木先生の言う通りにしましょう」
「ありがとうございます!」
「椎木先生、これからも生徒の指導をしっかりお願いしますよ」
「はい!それでは失礼します」
俺たちは退室する。
しばらく歩くと再び先生のオーラのメッキが剥げ、下品に笑い始める。
「くくく、笑いがとまんねぇぜ!この俺に指導をお願いしますだとよ!」
俺は他人に先生のこんな姿を見られたら大変だと、周りを見渡しヤキモキしながら話しかける。
「で、これからどうします?」
「そうだな、とりあえずこの体を戻してから、俺の部屋で打ち合わせをするとしよう」
俺たちは歩き出した。
俺は気になっている事を口にする。
「先生に授業の記憶がないのか心配なんですが…」
「ん?それは大丈夫だと思うぞ。真面目に授業やってるときは妙穂の意識をかなり表に出していたからな。内容はともかく、『授業をしたこと』は記憶に残ってるはずだ。じゃあ、この体戻してくるから、お前は部屋へ先に行っててくれ」
そう言って職員室に入っていく妙穂先生の体を見送り、俺は用務員室に向かった。
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コメント

こういうダークなのゾクゾクします 
続き楽しみにしてます

> こういうダークなのゾクゾクします 
> 続き楽しみにしてます

コメントありがとうございます。
今まで全くコメントが無かったので、このまま続けて良いのか?と少し不安になっていました。
励みにして頑張っていきたいと思います。

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